FAMILY
TIES

PART 2


「デザートのマスカットよ! みんなで食べましょう」
 リヴィングの両端で、夫々本を読んでいたアリオスとレヴィアスは、アンジェリークの明るい声に反応して、部屋の中央のテーブルに集まってくる。
 全員お風呂上りのため、お揃いのパジャマを着ている。
「はい、レヴィアス。はい、アリオス」
 アンジェリークは、各々に取り分けてガラスの皿に盛り付けたマスカットを、夫々に渡す。
「・・・俺が先に貰ったから、俺の勝ちだ、アリオス」
 レヴィアスは、勝ち誇ったようにアリオスを見、ニヤリと口元に優越の微笑を浮かべる。
「お子様は先と決まってるんだよ! レヴィアス」
 アリオスは冷たくあしらい、平然としている。
 レヴィアスは腹の中が煮えくりそうなぐらい腹を立てたが、今度はマスカットの数の多さで競おうと、アリオスのマスカットの粒と、自分のマスカットの粒を数えた。
 アリオス10個、レヴィアス9個。何度数えても同じ。
「アンジェリーク!!! アリオスの方がマスカットが1個多いぞ!!!!!!」
 レヴィアスは、声をあらだたしくし、アリオスを睨みつける。
「それは、俺の方が愛されてるから♪」
「何だと!」
 レヴィアスは立ち上がり、アリオスの前のテーブルを思い切り叩く。
 アリオスは、喉をクッと鳴らしながら不適に笑うと、今度は彼が勝ち誇った瞳でレヴィアスを見る。
 レヴィアスは、それが悔しくて堪らなくて、わざと涙目でアンジェリークを見た。こんなときだけ、子供に戻るレヴィアスである。
「アンジェリーク・・・」
「もう・・・、アリオス、子供相手に何やってるの。はい、レヴィアス。私のを1個あげるから、機嫌直してね」
 アンジェリークは、少し困ったように微笑むと、レヴィアスの皿にマスカットをひとつ入れてやった。
 見たかと云わんばかりに、レヴィアスはアリオスに自慢げな視線を送る。
「----これだからお子様は困るぜ?」
「俺は子供じゃない!」
「勝手に思っとけよ」
 アリオスは意味ありげな視線を一瞬レヴィアスに送ると、マスカットを口に運ぶ。
「・・・って」
「どうしたの、アリオス」
 アンジェリークは心配そうにアリオスの顔を覗き込み、彼の肩に手を置く。
「ちょっと、舌噛んじまったみたいだ」
「痛くない?」
「----キスしてくれたら直る」
「えっ!」
「貴様・・・!」
 アンジェリークは頬を紅潮させ恥ずかしそうに俯き、レヴィアスは眉間に皺を寄せ、嫉妬の炎をめらめらと燃え上がらせる。
「CO2が傷を殺菌してくれるからな」
 アリオスは、可笑しそうに喉を鳴らしながら、ゆっくりとアンジェリークに唇を近づけていく。
「待った! アンジェリーク」
 レヴィアスの突然の掛け声に、アンジェリークはふいに顔をそらした。
「俺が直してやる。大魔導士ヴァーンの直伝の技でな----お父さん」
 レヴィアスは、冷徹な笑みを浮かべほくそえんだ。
 アリオスの背中に旋律が走る。
 次の瞬間----
「いてっ、何しやがるテメエ!」
 レヴィアスは、アリオスの頬を思い切り伸ばした。CO2をたっぷり入れさせるために。
「直るぞ・・・、これで。ついでにおまえの頭もな」
 レヴィアスは、さも可笑しそうに喉を鳴らす。このあたりも、二人はよく似ている。
「やめろ! このガキ!」
 アリオスはもがく。
「いっぱいCO2が必要だろ? お父さん」
「おまえなんか、俺とアンジェリークが結婚してなかったら生まれてこなかったんだぜ?」
「何だと・・・!」
 とうとう二人は、取っ組み合いを始める。
「あ〜あ、毎度、毎度同じネタでよく喧嘩できるわね・・・。----だけど、幸せかしら。ふふ」
 アンジェリークは、喧嘩を始めた二人を幸せそうに見つめていた。
 しかし、彼女はよく知っている・・・。どのタイミングでとめれば良いかを。
 様子を覗いながら、アンジェリークは冷静にテーブルの上を綺麗に片付けた。。
「そろそろね。もう慣れっこよ」
 アンジェリークは、立ち上がると二人の前へ行き、パンと一度手を叩いた。
「はい、おしまい!!!」
 アンジェリークの掛け声とともに、二人はぴたりと喧嘩を止めた。真に威力のある一言である。
「----そうだな。明日はフォースゲートがオープンすっから、早めに寝るか」
 そう云って、アリオスはアンジェリークを抱き上げた。
「----きゃっ!」
 突然のことにアンジェリークは驚いてしまって、可愛らしい声を上げる。
「何をする!」
 レヴィアスの闘志は再び燃え上がり、アリオスの長い足を捕らえようとする。
「おまえ、”大人”なんだよな。だったら、いつまでも”ママ”と一緒に寝ねえよな?」
 アリオスは意地悪にせせら笑い、リヴィングから出てゆく。
 揚げ足を取られて、レヴィアスは悔しそうに唇を噛み締める
「今夜も働かねえとな! ”グレコ・ローマンスタイル”無制限1本勝負」
「もう、アリオス・・・、恥ずかしい」
 アンジェリークは真っ赤になって、顔を彼の胸に寄せる。
「お休み、レヴィアス!」
 アリオスは、レヴィアスに向かって軽くウィンクする。
「----アリオスの馬鹿者!!!」
 レヴィアスの悔しそうな声は、家中に響きわたった。

 覚えておけアリオス・・・!


コメント

またやってしまいました・・・m(_)m反省しております。平にご容赦くださいね。このシリーズ、読んでもいいよというお心の広い方がいたので、
調子に乗ってしまいました。前回「お風呂編」を予告しましたが、「お風呂上り編」になってしまいました・・・、反省。
ちなみにアリオス父の職業は「アリオス・インダストリ」の社長です(笑)これでピ〜ンと来た方は、成田さんのファンですね?
次回はいよいよ私設騎士団が登場「学校編」です。